キッチンを変えるなら、「せっかくだから広々と使えるものがいいな」と思うもの。でも、実際には限られたスペースのなかで思い通りのキッチンを実現するのはとても難しいことです。中でも、特にどんなサイズにすれば失敗しないキッチン選びが出来るのか頭を悩ませるところではないでしょうか。
キッチンサイズを選ぶには、次の3つのポイントさえ押さえておけば大丈夫です。
- あなたに合う高さを知る
- コンロやシンクなどの各スペースについて、作業しやすいサイズを知る
- キッチンを使うときの横移動について、ストレスのない距離を知る
このたった3つのポイントを押さえるだけで、サイズ選びがスムーズになるので是非知っておきましょう。
サイズ選びは高さから
キッチンサイズを選ぶにあたって、まずは「キッチンの高さ」を決めてしまいましょう。キッチンのメーカーや商品の種類はたくさんありますが、どの商品も高さはだいたい共通して決まっているからです。
キッチンを快適に使える高さは、一般的に(身長の半分+5)㎝が目安と言われています。これは、頭の高さを基準に料理がしやすい姿勢になるように考られているからなんですね。
たとえば、身長158㎝の人だと身長の半分が79cmなので、(79+5)㎝=84㎝となります。キッチンの高さは、ほとんどの商品が80㎝、85㎝、90㎝と5㎝刻みで用意されているので、85㎝が最も近いサイズになります。
一方で、重要なのは料理をするときの肘(ひじ)の高さです。これは字を書くことをイメージすると分かりやすいのですが、机に向かっているときの手の位置が肘(ひじ)より高いとペンが動かしにくく感じます。逆に肘よりだいぶ下でも同じです。
キッチンについても同じことが言えます。身長が同じでも、人によって体型が違うので肘(ひじ)の高さも違います。なので、キッチンの使いやすさは人によって変わってきます。「私には(身長の半分+5)cmの高さが合わないな」と感じても、それはおかしなことではありません。ムリに公式に当てはめて選ぶのではなく、肘の高さも意識して使いやすいかどうかを決めましょう。
ただ残念なことに、キッチンの高さについて肘から何センチ下が良いという基準は、まだはっきり決まっていません。人によっては7~15cmのひらきがありますが、私は(肘の高さ-10)cmが使いやすいキッチンだと思います。
なぜかというと、包丁を使うときの野菜の高さやミンチをこねるときに使うボールの高さは大きくても15cmくらいです。肘(ひじ)より5cmくらい高ければムリに肩を上げる必要はないので、楽な姿勢で料理ができるからです。これを例えば(肘の高さ-15)cmにすると、ほとんどの食材を肘より下の位置で料理できますが、今度はシンクをつかうときに低すぎて腰を曲げることになり、負担に感じやすいからです。
もし、キッチンの高さで迷った場合は、まずは(身長の半分+5)cmの高さで検討してみましょう。そして肘の高さを意識して、ショールームなどで使い勝手を確かめてみましょう。その高さでは「ちょっとしっくりこないな」と思ったら、(肘の高さ-10)cmをおおまかな目安にして、高さが少し違うもので使い勝手を確かめてみましょう。
また、人によっては「その目安ではぴったりのサイズがない」という場合もあります。たとえば身長155cmの人は(身長の半分+5)cmで計算するとキッチン高さの目安が82.5cmとなります。この場合、80cmにするのがいいのか85cmがいいのか迷うことがあります。商品によっては2.5cmずつ選べるものもありますが、今回は5cmずつしか選べない商品とします。
このように二つのサイズで迷ったときは、高めのサイズにすることをオススメします。先ほどの例だと、85cmの方を選べばよいことになります。
その理由は、キッチンが低くて使いづらい悩みは、キッチン自体を上げるか腰をおとして調理するなど、簡単にできない対策が多いからです。逆に高くて使いづらい場合は、かかとの高いスリッパをはくか、床に絨毯(じゅうたん)やスノコなどの台をおくなどして調節できるため、わりと簡単に解決しやすいからです。
また、「キッチンの高さ」が少し高いくらいだと、さほどのストレスを感じることはありません。実際に私の妻は、身長158㎝で肘の高さは100cmです。自宅のキッチン高さは85㎝ですが、腰に負担なく使っています。また、実家のキッチンは90㎝あり、帰省した際によくつかいますが「ストレスなく使っている」とのことです。
キッチンの高さを選ぶ際は、ショールームやお使いのキッチンで実際の使い勝手を確かめた上で決定しましょう。
キッチンのサイズ選びは調理スペースとのバランスが大事
キッチンの高さが決まれば、次は「キッチンのサイズ」を決めていきましょう。
キッチンサイズを選ぶときに一番重要なのが「調理スペース」。まな板を敷いて野菜を切ったり、ボールを使ってお肉の下味を付けたりするあのスペースです。もっともよく使う場所になるので、できれば広々と使いたいものです。
キッチンを設置する部屋が広ければ、調理スペースを目いっぱい広く作ることが可能です。しかし調理スペースを広げすぎると、シンクまでの距離やコンロまでの距離、冷蔵庫までの距離が伸びるので「移動距離」が長くなってしまいます。また、現実には部屋に限りがあるため、その分「シンク」や「コンロ」などにスペースを取られてしまいます。そうなると、かえって使いづらいキッチンになってしまいます。
このように言うと、「そんなこと言ったって、自分にぴったり合うキッチンのサイズなんて、何をどう決めていいか分からない!」と思ってしまいますよね。しかし、自分に合う「キッチンや調理スペースのサイズ」が分からない状態でも、全く問題ありません。
なぜなら、キッチンには「シンク」「コンロ」などのエリアごとに、一般的に使いやすいとされるサイズがあります。またそれぞれの「移動距離」についても目安がありますので、これらの目安があなたにピッタリなキッチンを選ぶ大きな助けとなるからです。
まず、「シンク」と「コンロ」には商品ごとにある程度サイズが決められています。なので、調理スペースのサイズは、「キッチン全体の長さ(間口)」と「シンク」「コンロ」などのサイズを決めることで、あとから決まります。
それぞれの一般的なサイズと使いやすい範囲については次の表を参考にするとよいでしょう。
一般的なサイズ | 使いやすい範囲 | |
キッチンの長さ (間口) |
150~300 cm | 180~285 ㎝ |
コンロ | 45~90 cm | 60~75 ㎝ |
シンク | およそ50~90 cm | およそ65 ㎝~ |
(調理スペース) | およそ30cm~ | およそ50cm~ |
(準備スペース) | およそ6cm~ |
ちなみに、キッチンでの「準備スペース」とは、シンクの横やコンロの横などにある余分なスペースのことです。商品によっては、シンクやコンロを左右にずらして、準備スペースを広く確保できるものもあります。またキッチンの準備スペースは、置くタイプの食器洗い機や料理の下ごしらえなどを置くのに便利なスペースでもありますので、合わせて検討しましょう。
サイズ選びに欠かせない「動線」の考え方とは
次に、キッチンのサイズを決めるのに欠かせないもう一つの要素「移動距離」について見ていきましょう。
「移動距離」を考える上で必要なのが、キッチンの「動線」です。動線とは、「人の移動を線で表したもの」です。例えば、卵焼きを作る場合の動線は大まかに次のようになります。
- 冷蔵庫から卵を取り出す
- フライパンに火をかけ卵を焼く
- 焼いた卵をお皿に移す
- 食卓へ運ぶ
- 食べ終わったらお皿をシンクへ運ぶ
- ついでにフライパンや調理器具も取る
- シンクへ運び食器と合わせて洗う
これらのひとつひとつの動作(移動)を線でつないでいきます。そのさい、キッチンの配置図を手書きでもいいので用意しておくと便利です。その配置図に先ほどの線を書き込むと、卵焼きの動線が出来上がります。
キッチンの動線を考える場合も、先ほどの例と同じようにします。つまり、普段の料理について、ひとつひとつの動作に分けて、キッチン配置図に線を書き込めば出来上がります。
この動線だけを見たときに、コンロやシンク、家電などの間を行き来する距離が短くすむ配置であれば、快適なキッチンスペースと言えます。でも卵焼きひとつでこれだけたくさんの線になります。普段の料理をもとに動線を書くとなると、もっとたくさんの線が出て大変ですし距離を計算するのもイヤになりますよね。実はこの「動線」をすごく単純にし、どの家庭でも当てはめられるようにしたものが「ワークトライアングル」という考え方です。
ワークトライアングルとは、「コンロ」「シンク」「冷蔵庫」の位置をそれぞれ結んだ線のことです。この線には、それぞれ快適に作業ができる長さの範囲があります。
この図では配置が三角形になっていますが、必ず三角形になっていなくても問題ありません。例えば、コンロ、シンク、調理スペースが一直線に並んだI(アイ)型キッチンの場合、冷蔵庫がキッチンの横にしか置くスペースが無いため三角形の配置にならなくても問題なく当てはめることができます。
なぜかというと、「コンロから冷蔵庫」または「シンクから冷蔵庫」のそれぞれの距離がワークトライアングルのそれぞれの長さにおさまれば良いので、次の図のように配置を考えることができるからです。
そしてこれらの基準を参考にすることで、狭すぎず広すぎないキッチンサイズを選ぶことができます。
先ほどのI型キッチンの例で具体的にサイズ選びをすすめてみましょう。もしできるだけ広々とキッチンを使いたい場合、ワークトライアングルを参考にすると「コンロ」と「シンク」の距離は180cm程度となります。また「コンロ」と「冷蔵庫」の距離は270㎝あたりが目安となるので、配置は次のように決まります。
そして、「コンロ」「シンク」などの各スペースのサイズを選びます。その際に、先ほど出した「コンロ」と「冷蔵庫」の距離(270cm)を参考にすると、キッチンの全体長さである間口の目安が分かります。キッチンの全体長さである間口は、たいてい15cmずつサイズが決められているので、今回の例では255~300cmあたりの間口からサイズ選びをすることになります。
キッチンの間口(長さ)が決まると、それに対して「コンロ」「シンク」はだいたい1~2サイズに決まりますので、とても選びやすくなります。「コンロ」「シンク」などのサイズを決めるにあたって、調理スペースとのバランスを見ることを忘れずに。このスペースは、規格サイズが無いので、見落としてしまいがちですがとても重要なスペースです。
コンロやシンクなどを広くとり過ぎたため調理スペースがせまくなってしまい、野菜の切り置きや下準備した食材が置きづらいなど、せっかくのキッチンがとても残念なことになってしまうからです。
調理スペースを考えるに当たって、普段のキッチンの使い方を思い浮かべてみて下さい。あなたが料理をしているときに置いているお皿やボール、調理器具などの数は多くてどれくらいあるでしょうか。「実は置ききれていないので、もっと置きたい」と思っているなら、その大きさや数も含めて考えると良いでしょう。
そうして出てきたものを広げてみたときに、調理スペースにおさまる大きさがあなたにぴったりなサイズとなります。もちろんまな板のスペースも忘れずに。
今回の場合、間口を広く取っているのでコンロとシンクを一回り大きくしても調理スペースのバランスが悪くなることはなさそうです。なので、コンロを75cmに、シンクを約80cmにしたとしても、調理スペースを60cm以上にできそうです。
商品によっては、準備スペースの広さを選べるものもあります。スペースに余裕がある場合は、そちらを広げても良いでしょう。
このように、調理スペースのバランスとワークトライアングルを意識したサイズを選ぶことで、あなたにピッタリなキッチンを手に入れることができます。
ただし、ここで注意してほしいのは、各スペースの使いやすい範囲やワークトライアングルなどの基準はあくまで目安でしかありません。体の大きさや歩幅、動くスピード、距離の感じ方などは人によってまったく違います。なので、キッチンの使い勝手について、実際の使用感を確かめたうえで選ぶことをオススメします。
また、これまでお使いのキッチンや冷蔵庫の配置が体になじんでいる場合は、新しいキッチンの配置によってどれだけ使い勝手が変わるのかも実際に確かめてみて下さい。
実際の使用感を確かめるのに一番てっとり早い方法は、お近くのショールームへ行って色んなサイズのキッチンにさわってみることです。もし、近くにショールームがないなど、どうしても実物を確かめることができなくても心配いりません。
気になるキッチンと、同じサイズの型紙を作って床に広げるだけで、サイズ感や使用感のイメージがみるみる浮かんでくるはずです。例えば、型紙は、新聞紙などの紙を切ったりつなぎ合わせたりして簡単に作ったもので充分です。イメージとしては次の写真のようになります。
これに実際のお鍋やお皿などを並べてみると大きさがもっと実感できますし、型紙の前に立ってそのキッチンを使ったときのことをイメージして動いてみると、動線を意識した使いやすさも確認できます。
合わせて、今のキッチンがワークトライアングルなどの基準からどれだけ離れているか、または近いのかを比較してみましょう。そうすることで、自分にしっくりくるキッチンサイズがより明確になるからです。
もし、キッチンメーカーが用意しているサイズでは、どうしてもピッタリなものが見つからない場合は、予算がゆるせばオーダーメイドキッチンにしてみるのも一つの方法です。
調理スペースを広くとれない場合は無理にとらなくてもよい
キッチン長さ(間口)が広く取れないので、どうしてもどこかのスペースをけずらなくてはいけない場合があります。その時に、コンロのサイズをひと回り小さくするべきか、シンクのサイズをがまんするべきか迷うものですよね。
そんなときは、コンロやシンクを標準のサイズより小さくするくらいなら、まず調理スペースを小さくしてしまいましょう。
シンクやコンロは小さいと替えがききませんが、調理スペースは工夫すれば広げることができるからです。
たとえば、間口が165cmしか取れない場合、調理スペースを優先してコンロを一回り小さい45cmに、シンクも50cmくらいにサイズを落としたとします。
すると、調理スペースがおよそ50cmもとれるのでたくさんの食材を調理スペースに置くことができます。しかし、コンロが小さいため、大きいお鍋で煮物をすると、横でちょっとフライパンを使うのもストレスを感じるくらい使いづらくなります。また、使ったお皿やお鍋などを洗うときに、つけ置きするスペースがないため、スポンジでコスってはゆすいでを繰り返して洗い物を減らさなくてはいけなくなります。
一方、間口は165cmのままコンロを標準の60cm、シンクを60cmくらいのサイズにしたとすると、調理スペースが30cmもとれなくなります。
でも、コンロをIHタイプ(電気で加熱するタイプのもの)にすることで、平らな面を増やすことができ、調理スペースの代わりになります。
また、シンクに補助プレートをつけることで、調理スペースを一時的にひろげることができます。補助プレートはキッチンメーカーが別売りで用意している専用のものを使うとガタつきを少なくできます。
このように、調理スペースは他のスペースより替えがききやすいので、どこかを削らなくてはいけないときは、最初に調理スペースから検討してみて下さい。
ただし、まな板を置けるスペースは必ず確保しておくべきです。補助プレートは専用のものを使っても少しガタつくので、まな板が調理スペースを大きくこえると、不安定になり使いづらくなってしまうからです。
いかがでしょうか、キッチンのサイズ選びについて、イメージがふくらんできたのではないでしょうか。まず料理のしやすい高さを決め、次に各スペースの快適なサイズを知ります。そして動線を考えた配置を決め、そこから間口(キッチン長さ)を導き出します。最後に各スペースを調整すれば完了です。
是非、あなたのキッチン選びの参考にしてください。